人間は忘れる動物だそうだが、
例に漏れず
ゆきの記憶が徐々に薄らいでいく。

ゆきが居てくれた時から、既に彼女が
若かりし日の思い出は然程無かった。
パーフェクトなゆきの元、パーフェクトに幸せな刻は
思い出に囚われ生きる必要が
無かったのかも知れない。

ゆきに対する記憶は全てが自分に対し
影、守護霊の様だった、という事に尽きてしまう。。。
気付かずリード無しでのヒール疾走、しかも
点滴直後。。。
助けを呼びに行ってくれた林、銀行前の連れ去られ未遂事件、
散歩時、怪しい人物への突然の咆哮、
その他、全てが完璧なまでの、出来過ぎな記憶。。。

常にゆきは物静かで、本当に「影」の様に振る舞っていた。
存在を消そうとしている様にさえ感じた。

こんな時、ゆきはどういう表情をしていただろう、
あの時、ゆきは何を求めていたのだろう、
何をして欲しかったのだろう。。。

ふくぎん、ぞく、えみを見るに付け、
ゆきが同様のシチュエーション時の表情を
必死で思い出そうとするが薄らいでいく事に
愕然とする事も屡。

永遠のゆきが薄らいでいく。。。

けして忘れないのは最期の刻、あの表情だけ。
自分が死ぬまで脳裏にへばり付いているであろう
あの刻のゆき。。。

ゆき、それでもおまえは私の命。

命そのもの。。。だった。
これまでもこれからもずっと。。。