に促され、タクシーを降り大雪の中一息どころか
トイレをする間も与えられずにゆきは診察室へ 
急かされた。
タクシーを降り、玄関まではほんの数メートルだが 
頭には雪が積もる程だった。。。

引き摺られる様診察室へ入り、
バタバタと診察台へ乗せられたゆき。。。
こちらもコートには雪が付いたまま
叩き落す時間も無かった。

早々、腫瘍を確認する教授。
徐々に悪化し、或日一夜にし5倍にも膨れ上がり
更に破裂し、分泌物塗れになっていたそれは
プレビコックスのお陰か、ゆきの治癒能力の
賜物か否か、元の腫瘍の大きさの数倍程度まで
小さくなっていた。

これなら手術しないで良いね。
呆気無く却下となった。

いつもであれば往復ペットタクシー故
待機して貰うのだが、手術予定だった為
帰してしまった。

それからが又、ゆきには大いに負担を掛ける事となった。
ペットタクシーへ連絡を取り
再び迎車を依頼するも到着まで2~3時間は
かかるとの事。
予約受診の際には、前日の食事は早く
当然朝食は抜き。増してオペの為
この日は水分も何も摂っていないゆき。
何かを食べさせたくともフードも
何も無い。

受付にて何処か食事の出来る場所は無いか
聞くも大学の地図入りパンフレットを渡されたのみ。
犬を預かります、と言われたが
飛んでも無い事だと思った。
ゆきが食べなければいけないのだ。

獣医科大学にも拘らず犬OKのレストランも
何も無かった。一部外に屋根付きのカフェが
有るとの事で、診察待合室からそこまで歩いて
行く事になった。
腹部は完全防備をしてはあったが
大雪がゆきの胸まで有る為、腫瘍の箇所が気になった。

具合の悪いゆきは、ゆっくりと雪を
掻き分け乍ら20分も歩き漸く屋根付きの
カフェの様な処に辿り着いたが
屋根というのはバーゴラであった為
何の役にも立たず、そこから学生食堂棟へ
歩いた。同じく埋まってしまう程の雪では
30分もかかった。本来5分程度だろうと思う。

閑散とした購買部でパンを買いゆきに食べて貰った。
それまでパンは良く食べていたが一つ丸々、
というのが気になったが
その様な事を言っている場合ではなかった。
目を皿のようにし、食べていたゆきの姿は
忘れない。

ここでもゆきを振り回したのだ、と今改めて
申し訳け無い思いが込み上げる。

パンを食べ、少しゆっくりとした後
再び病院本館まで歩いて帰った。
水分はどの様に摂ったのか記憶に無い。。。

再び待合室で1~2時間待ち、漸くペットタクシーが
迎えに来た。

この日の事も忘れなず鮮明に
まるで昨日の事の様に覚えている。

何から何まで文句も言わずに従い、悲しい程
唯ひたすら従順だったゆき。

おまえはもう居ない。。。

ゆき。。。逢いたくて気が狂いそうだ、
なんて言ったら怒られちゃうね。否、おまえは
怒らない。だけど苦しまなきゃ罰が当たる。
お母ちゃんは楽しんじゃいけない。笑ったらいけない。
美味しい物もたべちゃいけない。
おまえはもう食べたくても食べられないんだ。
おまえの苦しさ悲しみを思えばどれ程の事も
我慢出来る。
心臓が止まりそうになっても、吐血しても
背中、腰に激痛が走っても。。。
我慢しなきゃいけないんだ。せめてもの
おまえへの懺悔。。。

無碍な獣医に因り痛い苦しい思いもさせて
しまった事も心から申し訳けなかった。。。

それ以降「問題の研修医」を麻布大学で
見る事は無かった。
知らぬ間に辞めさせられていた。。。