バス停のベンチに座っていたその方が
ゆき散歩時に良く会った、
常々品の良い方だと感じていたお婆さんだと判った。
こちらから、この上無く明るく話し掛ける。

こんにちわ~!

あら、最初誰だか判らなかったわ。

そうですよね、犬連れじゃないと私も
飼い主さんだけじゃ、誰だろうと思ったりしますよ。

ゆきの話を振られない様
間髪入れずに矢継ぎ早に話し掛ける。

でもお元気ですよね。今半介護をしている者が
居るんですけど、何だか
全く違う様に思います。その者は耳も遠くて。。。

BAさんの話を引切り無しに機関銃の様に。
だが、それも徒労に終わった。
珍しくお婆さんは話を遮り

だけど今回は残念だったわね。

と笑顔混じりに振って来た。最初は本当に
意味が解らなかった。これだけゆきに固執していると
いうのに理解出来なかった。

「残念。。。今回は。。。」

不可解そうなこちらに向かい、更に説明を
加えていたと思う。確か
あなたの相棒さん、あの仔
とか何とか言ったかも知れない。

ゆきの事だ。
5秒後に脳が把握したらしい。

それからは何をどう話したのか記憶は曖昧。

「残念」という言葉に反応したのでもなく
笑顔で言われたからショックだったのでもないと思う。

薄っぺらで詰まらぬ拘りの、しかし唯一の牙城 が
崩れた瞬間だった。 

ゆき亡き後、マーチ君ママ、コッカーのチョコちゃんママ、
ワイフォ御夫婦等と会ったが
誰にも何も聞けない様などす黒いオーラを出しまくった。

マーチ君ママ等とは長話をしても
けして聞いて来なかった。優しい人だと思った。
それ以前に介護の件や同じヨーキーであるぞくの
話で盛り上げていた気がする。

ゆきちゃんは?と聞かれれば必ず
ボチボチ。。。と返答をするが
今回の様、既に亡くなった事を前提とし話掛けて
来られた場合の砦は用意していなかった。

心臓が捩れる程の苦しさに襲われた。
駅までの距離、同バスで十数分一緒に揺られた間
お婆さんは、ご自身のご主人や妹さんを
続けて亡くした話をされていたと思うが
それだけしか記憶には無い。

恐らく、普段とまったく違うこちらの変化に
何とか慰め様としたのかも知れない。

駅にての分かれ道、
残念だったわね、なんて軽々しく言ってしまって。。。
という様な事を言われた気がした。
言葉はきちんと覚えていない。

(否、違うんです。そんな事全くショックでも
何でもないです) 心の声は空気には乗らなかった。

自分はゆき在りしからずっと
その仔を亡くした飼い主さん方と会った場合も
絶対に口にはしなかった。寧ろ逆に違う話を
振りまくった。何故だったのだろうか。

それから何処をどう歩いたのか、気付くと座っていた。
カフェで声を掛けられた。

大丈夫ですか?

心臓が締め付けられ、帰宅後吐血をした。